初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 蓬星はヘリを蔵王に向けさせた。
 途中から雪が降り出し、風も強くなった。蓬星は舌打ちした。これではヘリが進めないかもしれない。
「これ以上は無理です」
 ヘッドセットから操縦士の言葉が届いた。

「なんとかならないか。女性が危険なんだ」
「助ける前にこっちが遭難しますよ!」
 操縦士は悲鳴のように叫んだ。
 それなら、と蓬星はスキー場に着陸するようにとその名を告げた。

 TODO株式会社が運営するスキー場だ。ヘリポートもある。
 そこに降りた直後、蓬星はゲレンデの受付へ飛び込んだ。

***

 彼はいつも通りにスキー場に出勤し、働いた。
 冬の間だけの期間バイトだった。
 スキー場での受付をして、スキーやスノーボード用品の貸出をしている。
 スキー場からは樹氷を見に行くための雪上車も出ていて、その受付も彼の仕事だった。

 樹氷は彼も見に行ったことがある。雄大な景色だ、と思った。バイトが休みの日にまた行きたいとも思うのだが、いざ休みになるとめんどくさくなってしまい、行けずにいる。

「雪、ひどくなってきたね」
 入口を入ってきたカップルの女が連れの男に言う。
「これ以上ひどくなる前に帰らないと」
 男は雪を払いながら言う。
 雪は外で払ってきてくれよ。そう思うが、受付の彼は言えずにため息をついた。あとでぬれた床を掃除に行かないといけない。

「外にスノーモービルがあったね。かっこいいなあ」
 スノボの板を返しに来た女のほうが言う。
「バイクみたいでいいよな」
 男がそう返した。

 スノーモービル、確かにいいよな、と受付の彼も思う。雪の中をさっそうと走る姿は男らしくていい。今度の休みに体験乗車に行ってみようか。
 そんなことを思っていたときだった。
 ばらばらと大きな音が聞こえた。
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