初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 ふと見ると、近くのヘリポートにヘリが降りてきた。
 こんな時間に、と彼は首をかしげる。
 急病人や怪我をした人の搬送のために、ここにはヘリポートがある。が、彼のところにはヘリが来るなんていう知らせは入っていなかった。

 まあ、俺はただの受付だし、と彼は思い直す。
 しばらくして、男が駆け込んできて、叫んだ。
「遭難だ!」
「ええ?」
 彼は驚いて男を見た。
 駆け込んだ男は、黒い髪とコートに雪をまみれさせ、必死な様子だった。

「スノーモービルを貸してくれ!」
「いや、それは……」
 なんだこの男は、と彼は困惑した。スノーモービルを強奪しようとしているのだろうか。
 すると、奥から支配人が現れた。

「蓬星様ですね。ご要望をお聞きするようにと会長から承っております」
 支配人は丁寧にお辞儀した。
「捜索隊の手配もいたしましょうか」
「頼む」

「スノーモービルの鍵はこちらになります。山荘と倉庫の鍵もございます」
「借りるぞ」
 蓬星は奪うように鍵を手にすると、走って外に出ていった。
「ええ?」
 受付の彼は呆然とその後姿を見送った。

***

 雪上車が目的地に着き、初美と貴斗は降りた。
 丸太造りの山小屋だった。脇には暖炉に使うのであろう薪が山積みになり、小型の斧が一緒に置かれていた。
 斧を出しっぱなしなんて不用心だな、と思った。が、冬のこんな山奥に来る人もいないのだろう。
 そのさらに奥には同じく丸太造りの倉庫らしき建物があった。

 雪上車はそのまま入り口の前に待機している。
 雪が降り始めていた。夜目にも白く舞うそれは、地上だけではなくコートにも髪にもどんどん降り積もる。
 貴斗は迷いなくドアを開けた。
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