初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 中は温かな光が満ちていて、一人の男性がいた。
 良かった、ちゃんと人がいた。
 初美はほっと息をついた。玄関ポーチで雪を払ってから入った。

「お待ちしておりました」
 男性はにこやかに言い、二人を迎えた。
 玄関を入ってすぐ右側の部屋へ案内される。
 普通のリビングのように見えて、初美は戸惑った。隠れ家的な宿なのだろうか。秘境の温泉と言っていたし、例えば一日一組だけと限定しているのだろうか。

 コートを脱いで、勧められたソファに座った。暖炉では赤々と火が燃えて、見た目にも暖かかった。
 部屋は白い壁にレンガが埋め込まれた意匠だった。壁には壁掛けプランターがあり、緑が垂れ下がっている。

 板の間の床には毛足の長い白いラグが敷かれ、続きのダイニングにはナチュラルウッドのテーブルセットがあった。
 二人にお茶を出したあと、彼はいったん下がった。その後、コートを着てまた現れ、二人の前でお辞儀をした。

「では、私はこれで失礼します」
 別で担当者がいるのだろうか。
 初美は不安がさらに強くなった。
「どういうことですか?」
 初美の質問に、彼はなにも答えずに出ていく。

「しばらく待てよ」
 貴斗が言い、初美は仕方なくまたソファに腰を降ろした。
 すると、エンジンをかけたまま待機していた雪上車が動き出す音が聞こえた。

 まさか。
 初美は慌てて窓から除く。
 勘違いではなかった。雪上車は動き出し、二人を残して山を下り始めていた。

「そんな!」
 思わず貴斗を振り返る。
 にやり、と貴斗は笑った。

「これで邪魔は入らない。二人きりだ」
 初美は自分の甘さを呪った。
 貴斗がここまでする人間だとは思わなかった。自分一人のために、こんなことをするなんて。
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