初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 嫌だ。絶対に嫌だ。
 自分はもう貴斗のものじゃない。
 たとえつきあっていたとしても、彼に自分を自由にしていい権利なんてない!

 貴斗はすぐに追いついて初美の腕をつかむ。
「上達したかどうか、確認してやるよ」
「離して!」
「お前みたいなクズダイヤを抱いてやるんだ。ありがたく思えよ」

 そのときだった。
 暗い雪原に、光が見えた。
 光は雪でちらつき、猛スピードで近づいてくる。

 貴斗も気づいたようだった。初美を離しはしないが、立ち止まってそちらを見る。
 スノーモービルだった。ビッグスクーターのような見た目で、前輪のかわりにスキー板のようなものがついている。

 貴斗は初美を投げ捨て、走り出した。
 車体を横滑りさせ、雪を蹴立ててスノーモービルが止まる。
 髪もコートも雪で真っ白にした蓬星が乗っていた。

「初美さん、無事か!?」
「蓬星さん……」
 蓬星はスノーモービルを降りて、雪の中に倒れていた初美を抱き起こす。

 助けにきてくれた。
 目にじわりとにじむものがあった。
 蓬星を見上げ、初美はハッとする。

「危ない!」
 蓬星を引き寄せる。二人して雪の中に倒れた。
 一瞬おくれて、斧が(くう)()いだ。

「いつもいつも邪魔をしやがって」
 荒い息で肩を上下させ、貴斗が目をぎらつかせていた。その手にあるのは小型の斧だ。玄関の照明を反射して、刃がぎらりと光る。

 蓬星は素早く身を起こす。
 貴斗はまた斧を振り上げた。蓬星はそれをよけて貴斗の腕をつかもうとするが、貴斗もまたよける。
 二人ともに慣れない雪の足場だ。雪で足をとられながら、対峙する。
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