初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
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蓬星さん、と初美がうれしそうに声を上げた。
なんであいつが、とふりむくと、スノーモービルが間近に迫っていた。
貴斗は舌打ちした。おそらくは山小屋にスノーモービルがあったのだろう。
「くそ!」
貴斗はスピードを上げた。が、スノーモービルの運転は不慣れだ。どんどん蓬星が迫ってく
る。
「こっちは人質がいるってのに!」
つぶやいて、気がつく。
むしろ、こいつがいるから追ってくるのではないのか。
「お前、降りろ」
貴斗の言葉に、初美は愕然と彼を見た。
***
信じられないことを言われた。
初美は呆然と貴斗を見ながら、彼をつかむ手に力をこめる。
走っている最中のスノーモービルから降りるなんてできるわけがない。
「だったら停めて」
「お前が飛び降りろ」
「できるわけないじゃない!」
貴斗は右手で運転しつつ、左手で初美をひきはがそうとする。
スノーモービルが蛇行を始める。
蓬星のスノーモービルが追いつくが、手出しできないようだ。
「今すぐ停めろ!」
蓬星が叫ぶ。
「知るか!」
貴斗は蓬星のスノーモービルに体当たりするように動かす。
蓬星は巧みに避ける。
貴斗もまた、それを前提としていた。本当にぶつけたら自分もただではすまないことくらいわかっている。
また、蓬星のスノーモービルをぶつけようとする。
ふりまわされて、初美はただ貴斗にしがみつくしかできない。
貴斗は蓬星に攻撃することしか考えていない。
だから、気が付かなかった。
その段差に。
気がついたときには、スノーモービルが宙を飛んでいた。