初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「うあああ!」
「きゃああ!」
 横転したスノーモービルはキルスイッチが作動して止まった。
 放り出された初美は、くらくらする頭を必死に上げて、蓬星の姿を探す。
 大きな影がざっと段差を飛び越え、車体を滑らせながら止まった。

「初美さん!」
 愛しい声がした。
「蓬星さん」
 答えて立ち上がろうとしたとき。

「動かないで!」
 蓬星が叫ぶ。
「どうして?」
「大丈夫だから、ゆっくり。ゆっくりこっちに手を伸ばして」
 疑問に思いながらも、初美は手を伸ばした。

***

 前を走るスノーモービルが段差で宙を飛んだ。
 蓬星は、その着地の衝撃で貴斗と初美が放りだされるのを見た。
 蓬星は自身のスノーモービルを段差でジャンプさせた。
 着地させると同時にスノーモービルを止める。

 初美はすぐに見つかった。
 だが、いる場所が最悪だった。
「雪庇《せっぴ》だ……」
 蓬星はつぶやく。

 崖や尾根などに発生する。風下に雪が吹き溜まり、せり出す。その下に地面などの支えるものはない。
 少しでも衝撃を与えれば、せり出したその雪ごと崖の下に落ちていくだろう。

「初美さん!」
 声をかけると、初美が動いた。良かった、命は無事のようだし大きな怪我もないようだ。
「動かないで!」
 立ち上がろうとする初美に、蓬星は声をかける。

「どうして?」
 初美はまだ気がついていないようだ。いらぬ恐怖を与える必要もない。気がついてしまえば、怖がって動けなくなるかもしれない。
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