初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 なんとかしないと。
 だが、現在位置はわからないし、連絡手段もない。

 私、死ぬのかな。
 ぼんやりと考える。
 凍死ってつらいのかな。
 こんなところで死んで、見つけてもらえるのかな。
 春になってからしか見つけてもらえないのかな。
 あたたかな春を思い、ため息をついた。凍るように白くなった息は、すぐに風に流されて消えた。

 怖い、と思うより、悲しかった。
 家族にも友達にも、誰にも別れを告げられない。
 お父さんもお母さんも泣くのだろう。順花もきっと泣いてくれる。
 蓬星さんは。
 思って、心臓が大きく脈打った。

 蓬星さんもまた、悲しんでくれるだろうか。
 きっと、そうだ。
 初美は必死に身体を起こした。
 手も足も、言うことをきかない。かじかむなんてものじゃない。本物の冬だ、と初美は思った。冬が本気を出したら、人間なんてひとひねりなんだ。

 だけど、負けるわけにはいかない。
 蓬星さんに会いたい。

 彼は初美を助けにきてくれた。きっとそうだと確信した。彼のためにも、こんなところでただ死を待つわけにはいかない。

 貴斗に襲われそうになったとき、いっそのこと、といったんは思ったが、死にたいわけではない。生きる可能性があるなら、それに賭けたかった。

 初美は立ち上がり、だが、すぐに倒れた。
 力が入らない。
 もはや雪が冷たいのかどうかすらわからない。
 意気地はすぐにくじけそうになる。

 もうダメなのかな。
 過去に見た映画やマンガが頭に浮かぶ。

 こういうとき、主人公たちはみな、あきらめずに救われる方法を探し、特技や知恵を使い、勇気を持って道を切り開いた。
 だが、初美はただの一般人だ。なんの特技もない。新しい扉を開ける勇気もない。
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