初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
左手の指輪が目に入る。よくあるデザイン、よくいる自分。冷たい銀色の輪に、ただ輝くためだけにカットされた石。なんの勇気も自分にはくれない。
クズ石、と笑う貴斗が思い出される。どんなに平凡であろうとも、価値が低かろうとも、彼に嘲笑う権利はない。
クズなんかじゃない。
初美は手に力を入れる。
平凡で、なんの特技もないけど。
今、自分にできるのは。
初美はぐっと歯を食いしばった。
自分にできるのは、ただあきらめないことだけ。
再び手足に力を込める。
力を振り絞り、初美は立ち上がった。
指輪をはずしてポケットに入れると、雪の中を歩き始めた。
吹雪の中、初美は歩いた。
ビバーク、と頭の中に言葉がよぎる。
が、雪をよけられそうな場所はなかったし、かまくらのようなものを作る気力もない。そもそも、そんなものを作っている間に凍えてしまうだろう。作った経験もないから、どれくらいの時間と労力がかかるのかもわからない。
蓬星も探してくれているはずだ、と思う。
が、不安も同時に湧いてくる。
もし、行き違っていたのだとしたら。
方向もなにもかもわからない。ただ、なんとなくこっちだろうという方向に歩いている。
もはや自分がどこから来たのかもわからず、どこへ向かっているのかもわからない。
全身は雪にまみれ、髪もまつ毛も凍った。息がかかる襟元にもまた氷がついた。ただ全身が寒くて痛い。
こんなの初めてだ、と初美は思う。
子供の頃、雪が降ると喜んでいた。真っ白になる世界に胸が踊った。大人たちが困った様子でいるのを、不思議に思っていた。
大人になり、雪国の人って大変だな、と他人事のように思った。
年に数度しか降らない雪は、やはり初美にとってはイベントのようなものだった。困るし迷惑だけど、どこか心を浮き立たせる。恋人同士をロマンチックに盛り上げるものだったり、レジャーを楽しむアイテムの一つだった。
だが今は、そんなときめきなど雪に感じていられない。命を奪うかもしれない白いものはロマンチックさも楽しさも、そんなものはかけらもない。
クズ石、と笑う貴斗が思い出される。どんなに平凡であろうとも、価値が低かろうとも、彼に嘲笑う権利はない。
クズなんかじゃない。
初美は手に力を入れる。
平凡で、なんの特技もないけど。
今、自分にできるのは。
初美はぐっと歯を食いしばった。
自分にできるのは、ただあきらめないことだけ。
再び手足に力を込める。
力を振り絞り、初美は立ち上がった。
指輪をはずしてポケットに入れると、雪の中を歩き始めた。
吹雪の中、初美は歩いた。
ビバーク、と頭の中に言葉がよぎる。
が、雪をよけられそうな場所はなかったし、かまくらのようなものを作る気力もない。そもそも、そんなものを作っている間に凍えてしまうだろう。作った経験もないから、どれくらいの時間と労力がかかるのかもわからない。
蓬星も探してくれているはずだ、と思う。
が、不安も同時に湧いてくる。
もし、行き違っていたのだとしたら。
方向もなにもかもわからない。ただ、なんとなくこっちだろうという方向に歩いている。
もはや自分がどこから来たのかもわからず、どこへ向かっているのかもわからない。
全身は雪にまみれ、髪もまつ毛も凍った。息がかかる襟元にもまた氷がついた。ただ全身が寒くて痛い。
こんなの初めてだ、と初美は思う。
子供の頃、雪が降ると喜んでいた。真っ白になる世界に胸が踊った。大人たちが困った様子でいるのを、不思議に思っていた。
大人になり、雪国の人って大変だな、と他人事のように思った。
年に数度しか降らない雪は、やはり初美にとってはイベントのようなものだった。困るし迷惑だけど、どこか心を浮き立たせる。恋人同士をロマンチックに盛り上げるものだったり、レジャーを楽しむアイテムの一つだった。
だが今は、そんなときめきなど雪に感じていられない。命を奪うかもしれない白いものはロマンチックさも楽しさも、そんなものはかけらもない。