初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 あのまま、あの場所で待っていたほうが良かったのかな。
 思った直後、雪に足をとられてころんだ。
 立ち上がろうとするが、力が入らなかった。

 もうさすがにダメかな。
 伸ばした手が、雪を掻いた。
 あきらめちゃだめだ。
 そう思うのに、意識がかすみ始める。

 その目に、なにか光るものが見えた。
 最期に見えるとかいう光かな。あの光に向かえば、天国に行けるのかな。私、普通に生きてきたよね。天国に行けるよね?

 脳裏に蓬星の優しい微笑が浮かぶ。
 こんなときでも、やっぱり彼が好きだ。最後に彼に会いたいと思ってしまった。
 ああ。こんなことなら、蓬星さんに会いに行けば良かった。会って、嘘つき! って怒れば良かった。あれ以上傷つくのが嫌で、避けていた。

 だが今、会いたいのは彼以外にはいない。
 そう思う初美の目に、光がどんどん大きくなる。
 スノーモービルだ。それに乗るのは蓬星だ。

 来てくれた。思うと同時に、違う、と思う。そんな都合のいいこと、あるわけない。
 最期に神様が幻を見せてくれたのかな。

「初美さん、しっかりして!」
 声まで聞こえた。彼がスノーモービルを置いて初美を抱き起こす。
 彼の手が初美の手を握った。
 温かくて、涙が溢れた。
 凍ったまつげについた雪が溶けて、一緒に流れた。頬を伝うときにはもうすでに冷たい。

「蓬星さん……会えて良かった」
 初美は言い、意識を手放した。
「ダメだ、初美さん!」
 蓬星の声が、雪原に響いた。
< 157 / 176 >

この作品をシェア

pagetop