初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 なにか温かいものに包まれている。
 気がついたが、初美は目を覚ますのが嫌でまた眠りに落ちようとした。このまま眠りと覚醒の狭間で心地よく微睡(まどろ)んでいたい。

 あたたかくてやわらかだった。こんなおふとんもってたっけ、と疑問に思うが、そんなことはどうでも良かった。なめらかな肌触りが気持ちよかった。

「初美さん」
 誰かが自分を呼ぶ。
 答えたくなかった。このまま眠ってしまいたい。
 そう思ったときだった。

 あたたかくやわらかいものが唇に触れた。と、次の瞬間にはなにかの液体が流し込まれる。
 喉がカッと熱くなり、初美のぼんやりした意識がいっきに覚醒した。

 目を開けると、蓬星の顔が間近にあった。
「良かった、気がついた」
「蓬星さん」
 驚いて彼を見ると、彼はなぜか裸だった。そして、自分もまた裸だった。

「きゃああ!」
 慌てて自分を抱くようにして胸を隠す。
「ごめん、緊急事態だったから」
 蓬星は言って、初美を抱きしめる。二人を覆っていた毛布がはらりと落ちた。

「もうだめかと思った。あんなに冷たくなっていて」
 蓬星の声に嗚咽が混じった。
 初美の肩に、冷たいものが落ちた。
 蓬星の涙だ。
 気がついて、初美は戸惑う。

 男性が涙を流すのをじかに見るのは初めてだった。どうしていいのかわからず、そっとその背に手を回す。

 彼はさらにぎゅっと初美を抱きしめた。
 黒髪をそっと撫でる。
 湿っていて、だけど、温かかった。
 暖炉の炎はおだやかにゆらめき、木の燃える音が静かに響く。
 初美は蓬星が落ち着くまで、ただ彼を抱きしめていた。
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