初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 初美はいつもお弁当を作ってきている。
 が、今日は同期の沢渡順花(さわたりじゅんか)と社員食堂に行く約束をしていた。

 食堂で会う順花は今日も綺麗だった。化粧はナチュラルで、なのに地味にはなってない。服はピシッとしていて、髪はきっちりまとめられている。一階のショールームで勤務していて、清潔感、信頼感を大事にして外見を整えているのだ。

 初美はハンバーグのAランチを、順花は酢豚のBランチを購入し、トレイに載せて席につく。
「どう、異動初日は」
「まだなんとも言えないよ」
 なんと説明していいのかわからない。

「仁木田瑚桃がいるでしょ? 大丈夫?」
「悪い予感しかしない」
 事務時代にやらかされたことは順花にも話している。

「ショールームにもいたことあるんだよね?」
「大変だった。実際にはない性能を説明したり、お客様の希望を無視して、自分のオススメをひたすら語ったり。お客様を怒らせる天才だった」
「やりそう……」
 そして、本人に悪気はない。怒られて、自分は一生懸命やっているのに、とふてくされるのだ。

「どこも持て余して、たらいまわし。なのに本人は有能だからひっぱりだこなんて思ってるらしいよ」
「ありえそう」
 初美はため息をついた。

「そういえば、イケメンの副室長がいるらしいじゃん」
「……いるね」
 初美はうんざりした。
 ワンチャン、実は別人でした、なんてことないだろうか。初めまして、と言われたし。

「確か、三十三歳だって。元カレとどっちがイケメン?」
「比べるものじゃないよ」
「同じくらいイケメンなのか。系統の違うイケメンなのかな?」

 順花とは仲良くしているが、元カレのことはあまり話していなかった。彼も社内の人間で、知られるとまずいと思ったからだ。イケメンだ、とは言ったことがある。今となっては言わなくてよかったと心底思う。
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