初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「私こそ、ありがとう。助けに来てくれて」
「間に合って良かった」
「ねえ……とりあえず、服が着たいわ」
 言われて、蓬星は苦笑する。

「着てきた服はまだ乾いてないから、探してくるよ」
 そう言って、蓬星は立ち上がる。
 彼は全裸だったから、初美は目のやり場に困った。
 2階に上がった彼は、Tシャツと短パンを着て降りてきた。予備のスエットがあった、と初美に着せてくれる。

「夏に来たときに忘れて行ったやつだ。あって良かった」
 夏に来た、とは。疑問に思って初美は蓬星を見る。いろいろと聞かなくてはならないと思うのだが、何から聞いたらいいのかわからない。

「凍傷は? 手足はなんともない?」
「いまのとこ、なんともなさそうだよ」
 痛くも痒くもないし、感覚もちゃんとある。
「貴斗だが」
 その名前を出されて、どきっとした。

「電話で確認したが、無事に麓に着いたようだ。捜索隊が出ていて見つけたそうだ」
「捜索隊!?」
「捜索隊は俺が依頼した。あなたを見つめるために。結果として、ひと一人が助かった。良かったよ」
 蓬星がはにかむように笑うので、初美はどきっとして目をそらした。

「ここ、電話が通じるのね」
「衛星電話があるからね」
「衛星!? 宇宙に浮かんでる、あの衛星?」
「そうだよ」
 初美の反応に、くすりと彼は笑う。

 いつか見た笑顔と同じなのがうれしくて、初美の目にじわりと涙が浮かんだ。だが、蓬星はそれを悲しみゆえだと判断した。

「……ごめん。あなたが無事だったから少しはしゃいでしまったかも。俺はあなたを傷つけたのに」
「どうしてそう思うの?」
「あの女から連絡があっただろ?」
 言われて、初美は表情をひきしめた。
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