初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「あなたの裸の写真が送られてきたわ」
「恥ずかしい話だが、薬を盛られた」
「薬って……犯罪じゃない」
「刑法で言えば薬物を盛るのは暴行罪に当たる可能性がある。薬物の影響で怪我をしたり体調を崩したりしたら傷害罪だ」
 初美はじっと彼を見て続きを待った。

「貴斗から、女をあてがわれた」
 言われて、初美はどきっとした。
「もちろん、彼女とはなにもない。一杯だけと言われて飲んだ酒に薬を盛られていた。それでホテルの部屋に連れて行かれて、写真を撮られたらしい」

 初美は驚いた。ニュースでたまに見かける。女性が被害に遭ったり、昏睡強盗で薬物が使われているのは知っているが、身近でそんなことが起きるとは思わなかった。

「眠ってるから、当然、そんなことにはなってない。が、実際にとられた写真をあなたに送ったと言われて、動揺したよ」
「あれ、合成じゃなかったんだ……」
「それで、その女を問い詰めた。写真のことも白状したし、今回、貴斗があなたをここに連れ込んだことも聞いた」
「それで来てくれたのね」
「その女が証言している動画もある」
 スマホを出そうとした蓬星の手を、初美は止めた。

「証拠なんていらない。信じる」
 初美の言葉に、蓬星は驚いて彼女を見る。
「だって、浮気する人が命がけで助けに来てくれるとは思わないもの」
 言った直後、蓬星にきつく抱きしめられた。
 力が強すぎて、胸が圧迫されて呼吸が苦しくなる。

「く、苦し……」
「ごめん」
 蓬星は慌てて腕をゆるめる。
「でも、指輪をはずしていたのはどうして?」
「気付いてたのか」
 驚く蓬星に、初美はうなずく。

「指輪に薬品がかかってしまって変色してしまった。それでメンテナンスに出していた」
「そうだったの?」
「かっこ悪い話で、言いたくなかった。こっそり直せば大丈夫かと思ってた。ごめん」
「浮気のためにはずしていたんじゃなくて良かった」
 初美はほっと息をついた。
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