初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「それで、脳卒中のことを知っていたのね」
「そういうこと。だけど、会社を継ぐ気はなかった。今日までは」
「今日?」
蓬星は黙って微笑する。
「あなたを守るためには、力が必要だと痛感した。だから、会社を継ぐことにした」
「え?」
それは話が飛躍しすぎではないのか。
初美はきょとんとして蓬星を見た。
「株式会社だから、祖父の発言や俺の意志だけでは社長にはなれない。だがそれでも、俺はこれから社長を目指す」
「えっと……頑張ってね、ってことでいいの……かな?」
急に社長を目指すと言われても、初美には実感がわかなかった。
「あなたが応援してくれるなら、どこまでも頑張れそうだ」
蓬星はくすりと笑う。
「来島みたいなやつが部長としてのさばっているのは許せない。祖父にまんまとはめられた気もしないではないけど」
「おじいさんに……」
「あのたぬきジジイ。弱ってるふりして転職させただけではあきたらず、こっちが弱ってるときに社長になるなら助けるとか、本当、鬼畜だよ」
「どういうこと?」
「あ……ごめん。忘れて」
「無理よ。どういうこと?」
蓬星はあきらめたようにため息をついた。
「脳卒中は本当だ。後遺症で歩けなくもなった。俺の前ではすっかり弱ったふりをしていたが、実際にはぴんぴんしていて、歩けない以外は元気だった。リハビリも順調らしい」
「そうなの?」
「今回、あなたを助けるために祖父を頼った。貴斗がこの山荘を利用しているかどうかの情報を確認してもらい、ヘリを出してもらって駆けつけた」
「ヘリ?」
そんな簡単にタクシーみたいに言われても、と初美は目をぱちくりさせた。
「それらをやってもらう交換条件が、会社を継ぐことだった」
そんな人生を変えてしまうようなことが条件だったなんて。
初美は呆然と彼を見る。