初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
食事を済ませると、露天風呂に案内された。
「一人で大丈夫? 心配だから一緒に入りたいな」
「そんな恥ずかしいこと言わないで」
初美は蓬星の胸を軽く叩いた。
「だって、さっきまで雪の中に倒れていたんだから」
「大丈夫だから。あなたも雪の中を凍えていたんでしょう? 先に入ってきて」
「だけど」
「お願い」
「わかった」
蓬星はかたくなな初美に折れ、先に入浴を済ませた。
その後、初美はどきどきしながら露天風呂に入った。
高さがあり、周りから覗かれる心配はなさそうだった。そもそもここまで来ることが難しそうだが。
浴槽の周りには木々が植えられ、その中には立派な桜の木もあった。樹齢は何年だろう。幹が太くて大きかった。春にはさぞ見事に花を咲かせるだろう。
雪見風呂もいいけど、花見風呂もいいなあ。
初美はそう思いながら、そっと湯船に浸かる。
乳白色のお湯の温泉だった。かすかに硫黄のにおいがした。
浴槽は岩を敷き詰めたような作りになっていた。岩山のようなものが作られ、源泉は滝のようになって流れ込んでいる。
湯温は四十度くらいだった。熱すぎずぬるすぎない。
吹雪はやんで、満天の星が見えていた。
はあ、と大きく息を吐いた。
真っ暗な空に、街では見えないような数の星が瞬いている。
あれらすべてが恒星で太陽のように輝いているのだと思うと、不思議な気がする。
太陽のようなはずなのに、すごく遠いから、光は小さいのだ。
蓬星が社長になると、遠く星のような存在になってしまうのだろうか。
想像しかできなくて、初美は首をふった。
「今を信じよう」
未来は今の地続きだ。今を確実に重ねていくことが、自分にできるすべてだ。
彼は自分を愛していると言ってくれた。
自分もまた、彼を愛している。
愛を、きちんと彼に伝えたい。
初美はある決心をして、ざばっと湯船から上がった。