初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 蓬星は初美の肩を抱いた。
 巨大な樹氷の間を、空気中の結晶化した水分がラメのようにきらめく。
 太陽が徐々に昇るにつれ、きらめきは増した。

「虹だわ!」
「すごいな」
 サンピラーのように真っ直ぐな虹が、雪の上に立っている。
「確かに原理的にはありうるが、こんなにくっきり見えるとは」
 蓬星は愕然とそれを見たのち、にこやかに初美を見た。

「初美さん」
 急に蓬星がひざまずいた。
「どうしたの!?」
 驚く初美の手を取り、蓬星は黒く輝く瞳でまっすぐに彼女を見つめる。

「俺と結婚してほしい」
「え!?」
「昨日も言ったが、今回のことで、痛感した。俺にはあなたが必要だ」
「そんな、急に……」
 初美は戸惑いながら蓬星を見た。
 蓬星の真っ直ぐな視線とぶつかる。

 彼の背後にはダイヤモンドダストが輝き、虹がきらめいている。
 昨日まで、絶望的な気分で過ごしていた。命まで危うい状況になった。
 それが今や、愛しい人に結婚を申し込まれている。
 事態の急変さに、心がついていかない。

 だけど、と初美は思う。
 彼のいない人生なんて考えられるだろうか。
 あのとき、会いたいと思ったのはただ一人、彼だけ。
 彼に会いたいからこそ、一歩を踏み出すことができた。

「……私で良ければ、お願いします」
「あなたでなければダメだ」
 立ち上がり、蓬星は初美を抱きしめた。そのまま抱き上げ、喜びのままにぐるぐると回転した。
「ほ、蓬星さん!」
「初美さん、愛してる!」
 初美は返事もできずにただ抱きついた。
 蓬星は笑いながら、そのまま雪の中に倒れ込む。
 一緒に倒れ込んだ初美は、すぐに半身を起こして蓬星を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「大丈夫。目がまわっちゃったよ」
 蓬星は笑いながら、初美の後頭部に手を回す。
 初美は彼の腕に誘われるままに唇を落とす。
 ダイヤモンドダストは星が降るように輝き、二人を包みこんでいた。
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