初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 山荘に帰った二人は、迎えに来た雪上車に乗り込んだ。
 宮城から東京へは新幹線で帰った。
 その日は二人ともに会社を休まざるをえなかった。
 初美は蓬星の助言通り、会社をしばらく休んだ。

 復帰する頃には、企画室に戻れることになっていた。
 こわごわと企画室に出勤すると、蓬星は正式に企画室の室長になり、貴斗と瑚桃がいなくなっていた。

 なにがどうなったのか。
 初美がたずねても、蓬星は答えなかった。
「これからは俺が守るから」
 ただ彼は笑っていた。



 久しぶりに出社した帰り、カフェで順花に会った。順花は笑顔で初美を迎えてくれた。
 食後のコーヒーが出されたタイミングで、順花は切り出した。
「しばらく会社を休んでたんだよね。大丈夫?」
「ありがとう、平気」
「なんか大変だったみたいね。写真は誤解だったんだって?」
「そうなの。詳しくは言えないけど」
 どこまで順花に話していいのか、初美は迷った。詳しく話すと蓬星に迷惑がかかるかもしれない。

「出勤したら仁木田さんがいなくなってて驚いたわ」
「ああ、それね。なんか、すごい噂がまわって、会社にいられなくなったみたい」
「すごい噂って?」
「あの子がセフレを大募集してるって」
「はあ!?」
「企画室で、大声で叫んだらしいじゃん。知らない?」
「それって、多分、もとは違うよ。私をいじるために言ったの」

「じゃあ、セフレ募集って単語と、仁木田さんが言った、その二つが独り歩きしたのか。自業自得だね」
 順花は合点がいったようにうなずいた。
「あんたの元カレは悪行がバレて海外の僻地に飛ばされたし。良かったね」
「うん……」
< 172 / 176 >

この作品をシェア

pagetop