初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~

***

 初美が帰ったデスクを見て、蓬星はため息をついた。
 なんとか宣言通りに貴斗とのケリをつけることができた。
 仕事上での問題は山積みだが、貴斗がいなくなった今は仕事に専念できる。

 山小屋から帰ってすぐ、蓬星は未麻から得た情報を元に、貴斗の被害に遭った人たちに接触した。セクハラ、パワハラの被害者たちは、これまで、泣き寝入りをしてきた。告発しようとした者もいたが、貴斗が創業者の孫であり社長の息子でもあるため、人事部の動きは鈍かった。

 蓬星は自分の立場を明らかにして彼らを説得した。創業者の別の孫が味方になった。彼らはそう思った。それが彼ら彼女らを後押しして、貴斗を告発することに協力してくれた。

 彼らの証言を人事部に報告した。蓬星が創業者の孫であると知っている人事部はそれをうやむやにすることはできず、調査を開始した。

 すぐにほかの証言も集まった。
 貴斗は仕事を放棄して遊びに行き、遭難したという疑惑があった。それらは取締役会でも議題として挙げられた。
 結果、海外に飛ばされることになった。日本には戻れたとしても、もう本社には戻れないだろう。

 未麻の件については、男たちの中に放り込んだ翌日、仲間から写真つきでメールが届いた。
 楽しい飲み会だったぜ!
 未麻は男たちと仲良さそうに肩を組んでいた。写真からでも皆が朗らかに酔っているのがわかる。
 蓬星は男たちを呼び出すとき、楽しく飲める女がいるから紹介する、と連絡した。
 だから、男たちは、ただ酒を楽しく飲むためにやってきた。

 女が誤解するのはわかっていた。男たちは強面だったし、悪辣なことを企む人物は、他人もまた同じように企むのだと思い込むから。
 そうして、蓬星は未麻からさらに証言を得た。貴斗が不埒なことを続けてきた証言だ。それは動画に撮ってある。

 彼女、筋肉の男に惚れたみたいだぜ。新しい世界が開けそうって喜んでた。
 仲間の報告の中で、それだけが意外だった。
 蓬星は思い出す。一緒に仕事をしていたとき、彼からはいつも筋肉を自慢された。筋肉のためにいかにストイックになれるか、筋肉にいい食べ物はなにか、長々と語られた。
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