初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 結局そういうことだ、と初美はため息をついた。
 彼は手を出せるチャンスがあればちゃっかり楽しむ人なんだ。
「お手洗いに行ってきます」
 隣にいた女性に言い、初美は席を立った。

「行ってらっしゃあーい!」
 そこそこ酔いのまわった彼女は、手を降って初美を送り出した。
 大丈夫かな。彼女こそ送る人が必要なのでは。
 でも、子供じゃないんだし。
 そう思ってトイレに行き、戻ってきて驚いた。

 誰もいなかった。
「嘘……」
 呆然と、さきほどまでの宴のあとを見つめる。
 支払いは佐野がすませる予定だったから、きっと問題ない。
「置いていかれるなんて」
 ちゃんとトイレに行くと伝えたのに。先に帰ると勘違いされたのだろうか。

「あれ? みんなは?」
 後ろから声がした。
 振り返ると、蓬星が驚いた顔で立っていた。
「わかりません。トイレから帰ってきたら、こんな状態で」
「俺達、忘れられたのかな」
 蓬星は苦笑した。

「仁木田さんを送って行ったんじゃないんですか」
「送ったよ。タクシーに乗せたから戻ってきたんだけど」
 初美を見て、彼は微笑する。
「確認するから待って」
 彼はスマホを出して電話した。

「室長、お疲れ様です。今どちらで」
 彼は二言三言かわして通話を切った。
「支払いは終わってる。みんなは二次会へ行ったって。どうする?」
「私は帰ります」
「俺も帰ろうかな」
 蓬星が初美の肩を抱いて言った。爽やかな香りが漂ってきた。

「そうですか」
 体をよじって彼の手から逃れ、初美は答えた。
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