初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 月曜日、初美はまた憂鬱に出勤した。
 土日はずっと羞恥に悶えて過ごした。
 ブラを彼が持っているのかと思うと、恥ずかしくて仕方がない。
 お気に入りのレースたっぷりのブラだ。高かったし、二度とあのデザインに出会える気はしない。

 どんよりと電車に乗り、どんよりとフロアに向かう。
 四角い部屋に四角い机が並び、LEDライトに照らされている。窓から入る日が明るくて、自分の気持ちとのギャップにうんざりした。

 それでも今日も仕事だ。がんばらないと。
 そう思って自席を見た初美は、机の上を見て硬直した。

 男性向けAVのDVDが何枚も置かれていた。ざっと見で10枚ほどに見える。教師ものやら職場恋愛ものやら、バリエーションは豊富だ。
 衝撃的な煽り文句に、女性たちのあられもない姿。

 なんでこんなものが机の上に。
 片付けたいが、触りたくもない。
「おはようございます」
 声がして、振り返ると蓬星がいた。
 彼は初美の机の上のものを見て、固まった。

「違います、私のじゃないです!」
 初美は叫ぶ。
 が、彼は初美が女性向けエロマンガを持っていたのを知っている。これも初美のものだと思われるに違いない。

 どうしよう。
 初美はうつむく。
 エッチに興味津々……どころか、大好きだと思われているに違いない。否定したくてもこんなところでは言えないし、なにより温泉での一夜があるから、信じてもらえないだろう。

「あれえ、せんぱーい!」
 最悪だ。
 初美の顔から血の気がひいた。
 最悪のタイミングで最悪の人が来た。
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