初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~

「先輩、AVが好きなんですかー?」
 瑚桃に大声で言われて、初美は恥ずかしくてさらにうつむいた。
 周囲の人からの視線を感じる。

「その発言はセクハラだよ」
 蓬星がやんわり言うと、瑚桃は頬を膨らませた。
「聞いただけなのにぃ?」
「そういうの、君には似合わないと思うな」
 優しく微笑み、彼は言う。

「えー?」
「バカみたいに見えるから、もったいないよ。ぶりっ子キャラより、バリキャリ風にしたほうが似合うよ。服装もね」
 はっきり言う蓬星に初美は驚いた。

「そうですかあ?」
 瑚桃は怒るでもなく首をかしげている。
「これは持ち主がわからないようだから、私が預かっておくよ」
 蓬星は初美の机からそれらを回収した。それから、フロアに声をかける。

「落とし物があったけど、私が持ってるから、持ち主はあとでこっそり来てね。感想きかせてね、借りたくなっちゃうかも!」
 茶目っけたっぷりに言うと、周りからは笑いが起きた。

 助けられた。
 ほっとして、だけどお礼を言っていないことに気がついた。
 仕事が始まると、もうそのタイミングがつかめなかった。



 始業して間もなく、佐野が申し訳無さそうに声をかけてきた。
「石室くん、芦屋さん、ちょっといい?」
「なんですか?」
 蓬星が答え、初美は黙って佐野をみた。

「データ化してほしい書類があるんだけど、芦屋さんに頼める?」
 蓬星が初美を見る。
「大丈夫です」
 初美が答えると、佐野はホッとして頬を緩めた。

「これなんだけどね」
 台車に、段ボールが3箱ほど載っていた。
「え?」
 予想外の量に、初美はあっけにとられた。
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