初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「昔の資料。フロッピーの時代のやつをクラウドに上げようとしたら、データが壊れてたって報告があって。幸い、印刷したものがあったから、これをデータにしてほしいんだ」

「全部……ですよね」
「書類の内容的に、外部には頼めなくてさ。頼むよ」
 佐野が初美を拝む。
 初美に拒否できるわけもない。仕事と言われたらやるまでだ。

「わかりました。スキャンして取り込む形で大丈夫ですか?」
「そうそう。あとはクラウドに保存してね」
 と、保存する先を教えられる。
「よく印刷したものが残ってましたね」
 蓬星が半ば感心するように言った。

「私が残してたんだよ。どうもデータって信用できなくてさ。信用しなくて良かった。でも結局、データ化するんだよねえ」
 佐野は苦笑いを浮かべた。

「今でもよく印刷してますよね」
「あれはね、単に画面の字が見づらくて」
「画面の色を変えてみたいかがです?」
「やり方わからないんだよね」
「やりますよ」
 蓬星が席を立ち、佐野のパソコンに向かった。

 初美は段ボールを眺めた。
 これを全部やるにはどれだけ時間がかかるだろう。
 初美はこっそりため息をついた。



 昼休みになると、蓬星はすぐに席を立った。
 助けてもらったお礼をいつ言えばいいんだろう。このままずっとタイミングを逃し続けそうだ。
 DVDの持ち主は現れず、彼の引き出しにしまわれたままだった。

 誰があんなことをしたんだろう。
 そんなに嫌われることをした覚えはない。そもそも来て一週間だ。
 ……企画に異動できなかった人の恨み?
 考えて、それはおかしいと思い直す。

 確かに初美の異動は変なタイミングだった。
 でも、だからといってそんなことをするとも思えない。
 セキュリティの問題もある。よその部署の人は簡単には入れない。
 持ち込んだとしたら、同じ部署の人間か、簡単に入れる立場の人だ。
 まさか、貴斗が?
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