初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 男性だから、女性とは感覚が違うのだろう。
 そういうところですれ違う、というのはなんとなくわかっていた。
 だから我慢して応じた。新しい自分をくれた彼に嫌われたくなかった。

 貴斗は結婚を匂わせてもいた。
 一緒に暮らしたら毎日会えるのに。
 君の手料理を毎日食べたいな。
 それがうれしくて、貴斗に呼び出されたら、ほいほいと会いに行った。
 愛されているのだから、と、違和感にはふたをしていた。
 結局、浮気をされたのだけど。

「どうかした?」
 聞かれて、はっとした。
 蓬星が心配そうに自分を見ている。
「大丈夫です」
 失恋をひきずっているなんて思われたくない。
 もう三十を過ぎているのだ。もっとしっかりしなくては。



 貴斗との別れのきっかけは最低だった。
 彼に呼び出され、夜の九時過ぎに彼の家に向かった。
 この時間からだと泊まりになるな、と覚悟していた。
 マンションの下に着いた時点でメッセージを送った。
 勝手に入ってきて、と返信があった。
 合鍵を使って、彼の部屋に入る。
 玄関には女性物の靴があった。

 どういうこと。
 わけがわからなかったが、彼に呼び出されたのだから、浮気とかではないだろう、と思い直した。
 女のくぐもった声が聞こえてきた。まさか、とリビングへの扉の前で立ち止まる。こんな声、普通の状態では出すことがない。
 だけど、自分は貴斗に呼び出されたのだ。きっと大丈夫だ。

 来たよー、と声をかけて扉を開ける。 入った瞬間、ソファの上にいる裸の二人が目に入った。
 煌々と明るい部屋で彼がソファに座り、女が彼の上に乗って喘いでいた。白い背で揺れる黒髪がなまめかしかった。

 目が合うと、彼はにやっと笑った。
 彼の目線を追った女も初美を見て、にやっと笑った。

 わざとだ。
 全身から血の気がひいた。
 二人で自分を笑いものにするために呼んだのだ。

 初美は走って逃げた。
 耳をふさいでも女の声が離れなくて、初美は一晩中泣いた。
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