初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「第二営業部の? 真面目そうなのに。いつも奥さんの自慢してたし、愛妻家じゃん」
「でも浮気で離婚されたんだって。真面目に仕事してたのにね」
 性格と性欲は別なのかな、と初美はぼんやり思った。ちゃらくても真面目でも、浮気するときはするのだろうか。
 浮気するなら、ちゃんと関係者全員の合意を得てほしい、と初美はまたため息をついた。



 終業時刻を迎えると、瑚桃が蓬星に声をかけてきた。
「一緒にごはんに行きませんかー?」
 バリキャリ風の外見に甘ったるいしゃべり方が似合ってなかった。
「みんなで行きましょう。芦屋さん、どう?」
 蓬星が向ける微笑に、どきっとした。

「私は……」
「行きましょうよぅ!」
 来るな、と目で言いながら瑚桃が言う。
「まだデータ整理があるので」
 初美はなんとか断った。

「じゃ、俺も残るよ。ごめん、また今度ね」
 なんで!?
 初美は顔をひきつらせた。
「絶対ですよー?」
 瑚桃はしぶしぶ引き下がって行った。

「私は大丈夫ですから、行ってらしたら」
「一応、君の指導係だからね」
 彼に優しく微笑まれて、初美はそれ以上なにも言えなくなった。
 データ整理なんて、明日に回しても良かった。
 気まずくて、がんばって作業を進めた。



 翌朝、出勤するなり、瑚桃は蓬星に絡みだした。
「昨日はありがとうございます、楽しかったですー!」
「それは良かった」
 彼は微笑して答える。
 初美はぎょっとした。
 食事は断っていたのに、結局行ってきたのか。
 もやもやした。
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