初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「蓬星さん、いろいろ詳しくって、勉強になりますー」
 下の名前で呼んでるし!
 初美は二人をガン見してしまった。
「仁木田さん、それはやめてくださいと言いましたよね」
 蓬星が言う。
「そうでしたっけ〜」
 瑚桃はとぼけている。

「またご一緒してくださいねー!」
 手を振って、瑚桃は去った。
 思わず蓬星をじっと見てしまう。
 視線に気がついた彼が振り返り、ばっと顔をそむけた。
「なにか?」
「楽しそうで良かったですね」

 彼はくすっと笑った。
「嫉妬ですか?」
 なんだこの人!
 初美は顔をひきつらせた。
「違います」
「私はいつでもいいですよ」
 いったいなんのことだ。
「節操ないんですか」
 初美がひきつっていると、彼はまた笑った。

「食事のことですよ」
 言われて、初美は顔を赤くした。
 彼にくすりと笑われ、うつむいた。



 企画って、外に出ることあるんだ。
 蓬星に連れられて歩きながら、初美は思う。
 ああ、事務に戻りたい。
 慣れないことばかりだ。
 取引先で素材の確認をしていた。
 私は来る必要なかったよなあ、と隣で話を聞きながら思っていた。
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