初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~



 店を出て、帰社の途につく。
 駅に続く歩道には街路樹が植えられていて、葉が落ちたそれは寒々しかった。
 裸だ、と思って落ち込む。
 ああ嫌だ、最近はそんな単語ばかりが頭に浮かぶ。
 エロマンガを読んだせいだろうか。
 それとも、と彼を見る。彼のせいだろうか。

 冬の日は暮れるのが早い。三時すぎなのにもう夕方みたいで、切ない日差しが彼を照らしている。
 陽を受けて、黒髪は少し茶色がかって見えた。形の良い鼻をしているから、特に横顔が素敵に見える。
 何回見てもかっこ良くて、彼を好きになるのは必然に思えた。

 先輩、とらないでくださいね。
 瑚桃の言葉が頭をよぎる。
 ああ、とまたため息をついた。
 恋も自由にできない。
 恋愛って、もっとときめいてキラキラしてるもののはずなのに、今はどんよりとのしかかるようだった。

 どうして彼と出会ってしまったんだろう。温泉なんて行かなきゃ良かった。
 ふと、弁解するならチャンスは今しかないのでは、と思う。今なら二人きりだ。会社に戻ったら人がいっぱいいて、もうなにも言えないだろう。

「あの!」
 初美が言うと、彼は立ち止まった。
「なに?」
 駅に近いが、幸いにも周囲に人はいない。
「言いたいことがあって」
 彼は黙って初美の次の言葉を待った。

「私、あの」
 言いづらい。だけど言わないと。
 うつむいたまま、初美は言う。
「私、誰とでもじゃないんです。特別なんです」
 彼が息を呑むのがわかった。
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