初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
土曜日は朝早くから出発した。
新幹線と在来線を乗り継ぎ、目的地へ向かう。
階段状の崖が有名なところだった。長さは二キロほどもあり、高さは六十メートルほどだ。
恋人の聖地にもなっているから今の心境としては複雑だが、景色がいいらしい。雄大な景色を見て、いいため息をついて、気分を上げたかった。
着いたあ!
わくわくして崖に向かう。
海がはるか眼下に広がり、柵のないそこは怖くて端まで近寄りたくなかった。だけど見てみたい。
どきどきしながら近寄ると、看板があった。
なんだろう。ゴミの不法投棄やめろ、とかかな。
じっと見てみて、顔をひきつらせた。
いのちの電話、と書いてある。
ちょ、待って、これって!
顔から血の気が引いた。
誤解されたらどうしよう。
真っ先に考えたのはそれだった。
気軽な一人旅だった。
ちょうど失恋したばかりで、それは順花もほかの友達も知っている。間違って崖から落ちたりしたら、失恋のせいで、なんて言われてしまうかもしれない。
順花は、もっとマンガを貸せば良かった、なんて泣きそうだ。彼女はマンガも本も大好きで、心の拠り所にしているから、同じように心の拠り所があれば、と思うに違いない。
連れがいたら誤解なんて受けないだろうに。
そうだ、写真を撮ってれば、観光客だってわかってもらえるはず!
スマホを出して景色を撮影する。
柵のあるところに来ると、少しほっとした。
でも、端っこまで行って間違って落ちたら、なにを言われるだろう。
不安で楽しめなくなってしまった。
そのときだった。
見たことのある人影があった。
「石室さん!?」
思わず声を上げた。
振り向いた彼は驚いて初美を見た。