初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 彼はつかつかと歩いてきた。
 しまった。
 初美は自分の失態を呪った。
 声をかけてしまったからには逃げられない。気づかれなければこっそり移動することも可能だったのに。変な誤解をされたらどうしよう。

「どうしてここに?」
「観光です。景色がいいって書いてあったから、気分転換に」
「俺もだよ」
 初美は目を丸くして彼を見た。
 そんな偶然ってある?
「こんな偶然ってあるんだな」
 彼がつぶやく。

 青い空を背に、今日も彼はイケメンだった。
 彼も自分が失恋した直後だと知っている。また変な誤解をされてしまうかもしれない。
 変なこと考えてるって思われたくない。
 そうだ!
「お願い、一緒にいてください」
 初美は彼の腕にしがみついた。

「は!?」
「なんか怖くて。誤解されたくなくて」
 彼が一緒にいてくれれば、変なことを考えているなんて思われないに違いない。それに、怖かったのは事実だ。

「けっこう積極的なんだね」
 言われて、ハテナ、と彼を見る。
「俺はいいけど」
 くすりと笑う彼の目線を追い、ハッと気がついた。

「すみません!」
 慌てて手を離す。
「離さなくてもいいのに」
 初美の顔がカーっと熱くなる。

「すみません、せっかくの一人旅に」
「俺のストーカーじゃないよね?」
 彼はまたくすりと笑う。
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