初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「違います!」
 変態を通りこしてしまった。もうそれだと犯罪者だ。
「俺のこと、好きなの?」
「違います!」
 本当はもう好きだ。だけど、そんなこと言えるわけがない。というか、そんなふうに聞かれるということは、やはりあのときの言葉を誤解されているのだろうか。

「ごめんなさい、いいです、一人で行きます」
「知ってる? ここは飛び込みもあったんだって」
「え!?」
 直球でそんな話題って出す!?
 怯える初美に、彼はまたくすりと笑う。

「クリフダイビングって言って、世界大会もあるんだ。防具なしで崖から飛び込んで着水までに技を決める」
「なんかすごそう」
 着水時の衝撃はどれほどなのだろう。怖くはないのだろうか。

「すごいよ。二十八メートルの高さから飛ぶんだから。ビルの八階くらいだよ。着水時は時速九十キロ、五Gにもなるんだって。命がけだよね。なのに技まで決めるんだ」
 五Gというと、体重の五倍の力がかかる状態のはずだ。初美には想像もつかない。

「お二人さん、洞窟の観光はいかがですか?」
 はっぴをきた呼び込みに声をかけられた。彼はにこにこと入口を手で示している。
「行ってみようか」
 初美は目を瞬かせた。
 もともと、そこにも行くつもりだった。

「一緒に? いいんですか?」
「いいよ」
「入口はあちらです、エレベーターで行けますので」
 洞窟にエレベーターで行くなんて、初めてだ。
 わくわくして歩きだすと、彼に手を繋がれた。

 え!?
 驚いて彼をみるが、彼は当然のような顔をしている。
 どうしよう。
 ふりほどくこともできなくて、どきどきと一緒に歩いた。
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