初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
入場券を買い、地下三十六メートルまでエレベーターで下る。着くまでがけっこう長かった。
エレベーターを降りてすぐ、等身大のジオラマのようなものがあった。ここで記念撮影をできるようだった。
そこからいったん、外へ通じるところへ出た。光が眩しく感じるが、波が打ち寄せる様はなんだか美しかった。
龍の口から温泉が出ていた。
その横には弁財天が祭られている。周囲にもたくさんの銅像があった。
「なんだか勇ましいですね」
よく見る弁財天は楽器を持っているが、こちらは剣を構えていた。
「なんでも願いを叶えてくれるらしいよ。恋でもなんでも」
彼と一緒に参拝した。
幸せになれますように。
漠然と、そう願った。
具体的な願いは思いつかなかった。
恋の願いなんて、今の心境では願う気にはなれなかった。
奥へ進むと、この洞窟が源平合戦で有名な熊野水軍に利用されていたという説明が書かれていた。その水軍小屋も再現されている。
「なんか、思ってた洞窟と違います」
「鍾乳洞みたいな感じじゃないね」
木の屋根があり、なのに壁は洞窟のままなのが不思議な感じだった。
洞窟の中にも潮の香りがしていて、驚いた。
カンテラのような照明が雰囲気を作っていた。
奥に行くと、海につながっていた。
絶え間ない波が音を立てて洞窟にぶつかる。音が反射して、大きく聞こえた。
潮が満ちているのか、海面が近いように思えた。
洞窟の入口から入る日差しのせいもあり、幻想的だった。
「滑るよ、気をつけて」
「たいてい、そう言ってる人が転ぶんですよ」
ふふっと笑ったときだった。
初美の足がつるっと滑った。
「きゃあ!」
「危ない」
とっさに彼が抱きとめてくれた。
「言ってるそばから」
彼は笑った。