初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「私の部屋もそっちなので」
 答えた直後、まさか、と思う。
 そう思ったのは彼も同じようだった。
「俺の部屋、ここだけど」
 フロントで鍵を受け取ったあと、番号を見せられた。
 あれ、と焦って自分のを見て、驚いた。

「隣ですね」
 初美も鍵を見せた。
「すごい偶然だな」
 彼も驚いた。
「でも、同じじゃなくて良かったです」
「さすがに二度はな」
 彼はくすりと笑った。
 並んで部屋の前まで行き、別れる。

 部屋に入ると、すぐに和室の座椅子に座り込んだ。
 ああ、もう。なんであの人がいるの。
 日常を忘れて、ゆったり過ごすはずだったのに。
 ため息をついて、部屋を眺める。

 蓬星と出くわしたときと同じような和室だった。よくある座卓に座椅子。座卓の上には歓迎のお菓子とお茶のセット。窓からは海が見えている。
 なんだか部屋が広すぎるように思えて、初美はまたため息をついた。



 大浴場は男女別で、もちろん彼と鉢合わせることはなかった。
 洞窟風の見た目にわくわくして、ゆっくりとお風呂に浸かった。
 茶色のごつごつした壁が水蒸気に濡れて、よりいっそうの洞窟らしい雰囲気を醸し出している。

 そこから海も眺める浴槽もあったが、湯船にしっかりつかると海が見えづらい。
 海の見える露天風呂とかって、たいてい海が見づらいな、と初美は残念に思った。かといって、しっかり海が見える作りにしたら、どこかから覗かれるのかもしれない。それはそれで嫌だ。

 それでも、やはり洞窟というのが独特で、気に入った。
 ご家庭でもこんなお風呂に入れたらいいのに。
 でもお手入れが大変だよなあ。
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