初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 翌朝。
 どうせ会わない、とたかをくくって朝食バイキングに行った。
 そしたら会ってしまった。まだ化粧もしていないのに。
 こんなに広い食堂なのに、どうして入口で出会ってしまうのか。

「今から?」
 蓬星がたずねる。
「そうです」
「俺もなんだ。一緒に食べようか」
「……はい」
 初美は断ることができなかった。いつもそうだ。相手の気分を害したくないから、流されてしまう。

 バイキングは朝から豪華だった。サラダコーナーには色とりどりの野菜が並び、スクランブルエッグにハムエッグ、ミニハンバーグやウインナー、ローストビーフもある。パスタもチャーハンもカレーもあった。ロールパンに白いごはん、どちらもおいしそうだ。

 どれにしようか迷い、ちょっとずついろいろ載せる。ちょっとずつだったはずなのに、気がつけばてんこ盛りだった。

 席に戻ると、皿を見た彼はくすっと笑った。
「朝からよく食べるね」
「旅の時は食べます」
 恥ずかしさをこらえて答える。彼の皿のほうが盛られたものは少なかった。

「和歌山はなんども来てるの?」
「初めてです」
「初めてで今回のコースとは、渋いね。熊野は興味ない?」
 彼は微笑をたたえて初美を見る。

「熊野はゆっくり周りたくて、今度にしようかと」
「そうだね、それがいい。いいところだよ」
「行ったことあるんですか?」
「何回か。那智の滝のあたりはけっこう歩くから、歩きやすい靴がいいよ」
「そんなに?」

「一番近い駐車場からでも、けっこう歩くよ。階段はあるけど、山道も選べるよ。古道を体験したい人はもう少し下の、大門坂から登る人もいるけど」
「そうなんですね」
 曖昧に答えた。言葉だけで説明書されてもよくわからなかった。
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