初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「登ったところにあるお店のひやしあめが美味しくて」
「飴ですか?」
「こちらではわりとメジャーな飲み物みたいだよ。でもあそこのはフローズンみたいになってて、暑い日に飲むと格別なんだ。暑くて汗かいてるときならなおさら。冬はホットがあるよ」

「美味しそう! それ聞くと、行きたくなっちゃいます。でもひやしあめなのにホットって、矛盾してますね」
 初美は目をきらきらさせた。
「俺が行ったときのメニューだから変わってたらごめん。今日はどこへ行く予定?」
「海中水族館です」
「そこもいいね。何時に集合?」
「え?」
「一緒に行くんでしょ?」
 初美は気がついた。昨日のあのときだけのつもりで言っていたのに、彼は今日もだと思いこんでいる。

 返事に詰まっていると、
「九時でいいかな」
 と彼が言った。
「はい」
 思わずそう答えていた。
「じゃ、またあとで」
 食事を終えて別れると、初美はため息をついた。

 また場の雰囲気に流されてしまった。
 このまま流されていては、いったいどこにたどり着くのだろう。
 情けなくてたまらなかった。



 海中水族館へ二人で向かう。
 途中、橋杭岩という名所も見た。海の中に大きな岩がいくつも連なっていて、面白い。弘法大師が橋を作ろうとしたとも言われている。

 海中水族館は、水族館と展望塔とセットにした。
「つきあってくれたお礼におごります」
 初美が言うと、蓬星は苦笑した。

「いいよ。俺が自分で君につきあうって決めたんだから。むしろ男の俺が出すべきところじゃないかな」
「いいえ、大丈夫です」
 初美は慌てて自分の分を払った。
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