初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~



 海中展望塔は、その名の通り海の中にあった。
 長いコンクリの通路を歩く。冬の海風は寒かったが、わくわくする気持ちが大きくて気にならなかった。
 海に突き出た白い建物にいく。海に刺さった円柱のそれが、海中展望塔だった。
 海面から出た上部はぐるりと一周できるようになっていたが、さほど高さはない。それでも海を遠くまで望めて、気分のいい眺めだった。

 中心の柱に沿って、狭くて長い螺旋階段があった。ひと一人が通れるほどの細さのそれを降りると、気温が下がった。水深は六メートルだ。

 円柱の壁のところどころに丸窓があって海の中を覗けた。窓は隣同士で上下にずらして設置されており、見られる魚の説明書きもあった。

「転ばないでね」
 彼は少し笑うように言った。
「人のこと、どんだけドジだと思ってるんですか」
「……けっこう」
「ひどい」
 そうはいっても、と初美は思い出す。彼にはドジなとこばかり見られている。
 酔っぱらって醜態をさらし、変なマンガを持っているのを見られ、男性トイレに入ったのを見られ。

 今は忘れよう、と初美は丸窓を見る。
 少し濁っていて、透明度はよくなかった。グレーがかった青い海中に、珊瑚が見える。

「ここ、本当の海なんですよね」
「餌付けはしているらしいけど、養殖ではないよ。水槽の中でもない」
「なんかすごい」
 初美は魚を見るたびにスマホのカメラで写した。ガラス越しである上、魚が素早く動くので、うまくは撮れなかった。

 波は海中にもあるはずなのに。
 魚たちを見つめて、初美は思う。
 どうして彼らは流されないのだろう。どうして自分の思う方向にまっすぐ進めるのだろう。道もない大海の中、彼らが迷うことはあるのだろうか。

 ましてや、冬の海は冷たいだろう。どうして彼らは凍えずに泳いでいられるのだろうか。
 魚はいいな、恋だのなんだので悩まなくていいから。
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