初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「俺と付き合うとか」
「どこへ?」
 初美が言うと、彼は笑った。
「そんな古典的な勘違い、する?」
「え?」
 勘違い? 付き合うって、まさか。

「俺、いつも期待させられて、突き落とされてばっかりなんだけど」
 期待って、なに!?
 思ってからハッとする。まさか体の関係ってこと?

「期待に応えられることはなにもありません!」
 初美は慌てて階段に向かう。
「待って」
 蓬星は初美を抱きとめた。
 思いがけない行動に、初美は驚いて彼を見る。顔が近くて、慌ててうつむいた。
 今ここには二人だけ。
 静かで、息遣いすら聞こえそうだ。

「私のこと好きでもないのに、やめてください」
「好きでもない人にこんなことしないよ」
 今、好きって言った?
 誰を?
 初美の頭に、理解は遅れてやってきた。
 この状況、自分を好きだと言う以外にはないじゃないか。
 でもあの夜は、と初美は彼を見る。彼は微笑して彼女を見下ろしていた。

「誰にでも言うんですよね、それ」
「俺、そんなに軽く見える?」
 初美は答えられなくてうつむいた。正直なところ、そう疑っていた。そう思おうとしていた。自分をそうやって守ろうとしているのだとは、うすうす思っていた。振り向いてもらえない未来は悲し過ぎるから。

「あの夜のことなら仕方ないよ。君があまりにも魅力的だったから」
 聞き慣れない言葉に、初美はまた目を瞬かせた。
 鼓動は早くなる一方だ。どきどきしすぎて胸が痛い。
 彼に振り回されてばっかりだ。
 思った直後。
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