初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「誤解されてると思うんです。だから、好きって言ったら簡単にできる、そんな女と思われてるなら、違います。ただ、愛する人と結ばれたいだけなんです」
「あなたが真面目な人だってこと、仕事を見てたらわかるよ」
彼が言う。
「データ整理、頑張ってくれたよね。前より参照しやすくなった」
初美は驚いて彼を見る。
評価されていた。彼は優しく微笑して初美を見下ろしている。
「私、役立たずだからデータ整理ばっかりなのかと……」
「企画が初めてだっていうから、過去データを見てもらえばわかるかと思ったんだけど。不安にさせてたなら申し訳ない」
そんなこと、説明してもらえなかった。
まわりくどい教え方だが、彼なりの指導だったのか。
なんだか少しホッとした。
「あなたから見た俺は、どうなのかな」
そんなの。
初美は思う。
素敵以外になんだというのか。
彼はふわっと初美を抱きしめた。さわやかな香りがして、初美はまたあの夜を思い出した。コートはウールのようだが、頬に当たる表面は滑らかで、さらりとしていた。
「温泉で出会ったあの日から、ずっと気になっていた。初めて会う俺に泣きつくくらい傷ついていたあなたを、守りたいと思ったんだ」
「……本当に?」
「本当だよ」
初美は彼を見上げた。
彼の微笑は優しかった。目が穏やかで、少し上がった唇の曲線はやわらかだ。
「俺じゃダメ?」
彼がたずねる。
心臓がキュッとなった。
感情があふれてきて、初美の理性を押し流した。思考なんて、もうなんの役にも立たない。
「あなたがいいです」
初美が顔を赤くして答えると、彼はくすりと笑った。
「良かった」
彼の顔が近づいてくる。
初美が目を閉じると、唇が重なった。
室内の温度が、急に上がった気がした。