初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 蓬星は車を走らせた。
 高速に乗る前に、彼は少し難しい顔をして初美にたずねる。
「やっぱり休憩に行きたいな。いい?」
 初美はうなずく。
「長時間の運転になりますから休憩は大事ですね」
 彼はくすりと笑った。
 あれ? なんかおかしいところあった?

 疑問が解消したのは、その駐車場に入ってからだった。
 彼は愛し合う人たちのためのホテルの駐車場に入ったのだ。
 休憩って、そういうこと!?
「行こうか」
 言われて、初美はもじもじした。

「もしかして、こういうところは初めて?」
「いえ、あの、その」
 初めてではない。が、それを言うのも恥ずかしい。
「休憩は大事なんだよね?」
 いたずらっぽく、彼が笑う。
 もしかして、ただ仮眠するためだけに来たのだろうか。
 そんなわけない。

「嫌なら言って。無理強いしたくない」
 だけど。
 初美はうつむく。
 元カレには、それに対しての消極的な態度で嫌われた。また嫌われてしまったら。またあの胸が破裂しそうな思いをしなくてはならないのだろうか。それくらいなら、自分が我慢すれば、少なくとも今日、つらい思いをしなくてすむ。

 彼の告白を信じてないわけではない。
 だが、信じた貴斗は、結局は初美を嘲笑った。
 その経験が、初美をためらわせた。
 普通はもっと時間をかけてわかり合ってから関係を深めるのだろうに。

 だけど、彼とは初めて会ったその日に体を重ねていた。だから彼は大丈夫だと思って求めるのだろうか。
 もっと彼を知る時間がほしい。だけど。
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