初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「そんなにエッチって大事? 男の人って騎乗位が好きなの? 上にならないとダメなの?」
 彼は飲み物を噴きそうになった。
「いや、それは」
 それが嫌いな男には会ったことがない。
 が、なにを答えてもセクハラになりそうで、彼は答えられない。

「裸になるだけでも恥ずかしいし、いつも痛いけど、愛してるから耐えてたの。なのに、もっと耐えないとだめなの?」
 痛いのはそいつが下手だっただけでは。
 思うが、やはり言えずに黙る。

「あげくに、お前じゃたたないって言われたの」
 彼女を相手にそれはありえないだろう。元カレは彼女をよほど貶めたかったのだろうか。
「私、そんなにダメかなあ?」
 女が胸をおしつけてくる。
「はあ?」
 酔っ払いのたわごとだ、と彼は自分に言い聞かせる。

 彼女は潤んだ目で自分を見ている。半開きの唇はまるで誘っているかのようだ。浴衣の胸元は緩み、ノーブラの豊かな谷間が見えてどきどきと目をそらした。
 このままやられちまっても文句は言えないぞ。
 とはいえこれでことに及んだら、あとでどれだけ罵られることか。下手したら警察に駆け込まれる。

 だが、と思い出す。
 旅に出る直前、友人に新品のゴム製品を一箱、渡された。彼のいつものジョークだった。
 男の一人旅でいつ使うんだよと突っ込んで笑いあい、結局は受け取った。

「ねえってば」
 潤んだ瞳で覗き込まれ、彼は目をそらせなくなった。

 彼女は砂漠で出くわした禁断の果実だ。ほおばれば果汁があふれ、瑞々しさは体中を潤し、極上の甘さにしびれるだろう。たとえ口にした途端に神罰が下ろうとも、(かっ)した旅人は誘惑に決して勝てない。
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