初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 彼はいったん、彼女から離れた。
 初美は泣きそうに顔をゆがめた。
 失望させてしまった。
 またこれで捨てられるのだろうか。
 あっという間の失恋だ。
 思ううちに、ころん、と転がされた。

 彼は後ろから彼女を抱きしめた。
 彼女は驚いた。
 どうしたらいいのかわからなくて、顔を枕に伏せる。

「こういうのは嫌?」
 きかれて、答えられない。
 さきほどは強く拒否してしまった。これでまた拒否したら、彼は完全に自分を嫌いになってしまわないだろうか。

「好きだよ」
 片手で彼女を抱きしめて、彼は言う。
 本当だろうか。信じていいのだろうか。
 彼は、ずっと自分を気遣ってくれているように思える。今も、無理に動かず、初美の返事を待ってくれている。

「我慢しないで。嫌ならやめるから」
 初美は首を振った。
 背中に彼の体温を感じる。なぜだか、普通に抱きしめられるよりもずっと、彼が深く愛してくれているように感じられた。
 初美は彼の腕に自らの腕をからめ、頬を擦り寄せた。

「言ってくれないとわからないからね」
 彼は言い、後ろから胸の先端を摘まみ、撫でる。初美はまたのけぞった。さらには背筋を舌で舐め上げられ、体がどうしても反応してしまう。

 恥ずかしい。
 でも、彼がそうしたいのなら。
 彼は心から愛してくれているのだ。あの男とは違う。信じないと。でも。
 思考はただぐるぐると空転する。

 彼はゆっくりと、だが確実に初美の弱点を愛する。
 彼が動くたびに、やはり初美は翻弄され、思考はとろけていってしまう。
 初美は彼の与える悦びにただ震え、考えることをやめた。
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