初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 以前は休憩という言葉に反応していたからそれで通じるかと思ったら、まったく通じていなくておかしかった。
 彼女が勘違いしてしまったから騙し討ちみたいになってしまったが、それでも彼女は了承してくれて、うれしかった。

 彼女を上にしたとき、急に様子が変わった。
 元カレを思い出したのか。
 嫉妬が生まれ、渦巻いた。
 後ろからならば、俺の顔を見ずにすむだろう。
 だが、蓬星にとってはそんな程度では済みそうになかった。

 彼女のすべてを塗り替えたい。記憶を、愛を。
 彼女を大切にしたい。そう思うと同時に、彼女を自分に狂わせたい欲望が抑えられなかった。
 我慢して応えようとする様子に、さらに胸はかきたてられた。いじらしくて、愛を止められずに動いた。

 なにも考えられなくしたい。俺以外のことはすべて。
 彼女が嫌と言わないことにつけこんで、彼女を愛した。
 自分の動きでもだえる彼女は確かに自分のもののようで、その瞬間は満たされる。

 だが、ことが終わって離れてしまえば、すぐに不安が押し寄せてくる。
 以前、酔った彼女が言った前の男はハイスペックで、結婚したい女性には好条件だ。
 ふと、その条件に合う男が頭に浮かんだ。

 来島貴斗。
 まさか、あいつが?

 彼のことは子供時代から知っている。親同士のつきあいがあるからだ。
 いつも偉そうにしていて、なぜか蓬星を目の敵にして張り合ってきて、うっとうしかった。
 蓬星は気にしないようにして、距離をとった。貴斗を褒め、こちらは負けでいいとアピールしたのに攻撃は止まなかった。

 大学は同じだった。学年が違うから大丈夫だろうと思ったのに、蓬星を見つけては絡んで来た。
 貴斗はTODOの孫の立場で、父はTODOの常務だ。貴斗はそれを鼻にかけていた。女を泣かせてばかりとの噂が絶えなかった。

 蓬星が友人と大盛りに挑戦した話を聞きつけると、貴斗は超大盛りを食べたと聞えよがしに言い、蓬星が教授にほめられると、教授のいないところでけなしてきた。これみよがしにブランド物を身に着け、とりまきとともに蓬星を嘲った。

 あるとき、友人に言われた。貴斗がこなをかけた女の一人が「蓬星さんが好きだから」と断ったから蓬星を嫌っているらしい、と。あいつやべーよ、気をつけろよ、とも言われた。
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