初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 プライドの高い貴斗らしい話だ、と蓬星がため息をついた。
 だが、それ以前から貴斗は蓬星を踏みつけようとしていた。その原因を蓬星は知らない。

 就職で離れたときにはほっとした。
 だが、事情があって転職し、貴斗と同じ会社になった。
 立場はあちらの方が上だ。
 それで満足してくれたらいいが。

 ちらり、と初美を見る。
 あの男が元カレではなかったにしても、もし自分と初美が付き合いだしたと知ったら、貴斗はどんなちょっかいをだしてくるか。

 今となっては、関係を内緒にしたいと初美が言ったのはありがたかった。彼女を守るためにも。
 いつか、と彼は思う。
 それでもいつか、貴斗は知るだろう。
 自分が入社したことはもう知っているはずだ。
 今までちょっかいがなかったのは、部長として忙しくしていたからか、もう自分には興味がなくなったのか。
 後者であればいいが、と蓬星は息をついた。



 家に着いた初美は、車から降りる前に何度も蓬星に頭を下げた。
「すみません、寝ちゃって」
「無理をさせたのは俺だから」
 蓬星は微笑した。彼の余裕が初美には眩しい。

「だけど、あなたと一緒にいられて本当にうれしかった。また一緒に旅行に行こう」
「はい」
 初美はうなずく。

「一人暮らしなんだよね?」
「そうです」
「俺も一人暮らしなんだ。いつでも泊まりに来て」
「泊まりにって」
 それはつまり。
 考えて、初美は赤くなり、蓬星はくすりと笑った。

「名残惜しい……。また明日ね」
 彼が近付いてくるので、初美は体を寄せて目を閉じた。
 蓬星の唇が重なる。
 優しい感触だった。
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