初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
部屋に入った初美は、大きく息をついた。幸せなため息だった。
ありえない。
旅先で一夜を共にしただけの彼と再会するだけでもすごいのに、さらに恋人になるなんて。
ただ抱擁されただけで、彼の愛を感じた。
再び一つになった今日、彼の優しい愛し方に、信じていいのでは、と思った。
いつか来る別れが怖くて、別れるなら早くと言ってしまった。が、驚く彼を見て、ちゃんと自分を愛してくれているのだと思えた。
それに、と初美は思う。
車の中で寝るなんて、貴斗は絶対に許してくれなかった。うっかり眠ってしまったときがあったが、ずっと不機嫌に文句を言われた。
それ一つとっても、蓬星はぜんぜん違う。
大丈夫だ、と初美は自分に言い聞かせる。
きっと大丈夫。一緒に歩いて、一緒に笑える人だ。
仕事はテキパキとこなすし、転職したばかりとは思えないほど周りと打ち解けて頼られていた。
へこたれて、もとの部署に戻りたいとばかり言っていた自分とは大違いだ。
頑張ろう。
初美は自分を励ます。
彼は、自分の仕事を評価してくれた。嫌だ嫌だといってばかりいないで、今自分にできることをやろう。
それはきっと彼のためにもなる。
初美は彼を思い、目を閉じた。
月曜日に出勤した初美は、瑚桃にジロジロと見られて戸惑った。
「先輩、なんか急にキレイになりましたね」
「そう?」
瑚桃に言われて、どきっとした。いつもより化粧を念入りにしたせいだろうか。
「気持ちのいいエッチをするとキレイになるっていいますけど、エッチしたんですか?」
瑚桃の言葉に、周りの人がギョッとこちらを見てくる。
「なんてこと言うの!」
予想外の言葉に、初美は驚きとともに非難した。
しばらく前まで、自分がそればかり気にしている人間だと思われたらどうしようかと思っていた。