初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 が、今は、瑚桃こそそんなことしか頭にないように見える。
「おはようございます」
 蓬星が出勤してきた。
「なにかありました?」
 空気を察した蓬星がたずねる。

「蓬星さん、知ってますぅ? 先輩はエッチがうまくなりたいんですよ」
 にやにやと瑚桃が言う。
 周りがざわつきながら初美を見ているのがわかった。

「みなさーん、先輩はエッチの練習相手を募集中ですよー!」
 瑚桃が声を張り上げた。
「違います! 違いますから!」
 こちらを見ている人たちに、初美は弁解した。

「隠さなくてもいいじゃないですかぁ。先輩が友達に相談してるの、知ってますよ」
「なによ、それ!」
「スマホを見たから知ってるんです」
「スマホ!?」
 ロックをかけてあるのに、どうやって。
 貴斗とのやりとりを全部削除してあって良かった、と思った。

「パターンロックは、指の跡ですぐわかりましたよぉ」
 あっけらかんと、彼女は言う。
 蓬星は難しい顔をして瑚桃を見た。
「仁木田さん、今日も絶好調だね」
 蓬星の言葉に、瑚桃はにこっと笑った。

「わかりますぅ? 朝から調子良くって!」
 嫌味の通じてなさに、初美は愕然として、いや、いつものことだと思い返す。
「おはよー。あ、なんかトラブル?」
 佐野が現れて、のんきに言った。

「そうですね」
 蓬星が苦々しく答える。
「室長ー! おはようございます!」
 瑚桃は笑顔で挨拶を返した。



 
 この日、初美はあちこちから聞こえるヒソヒソ話に胃が痛くなった。
 男性の目が自分を値踏みするようで、なんだか恐怖を感じた。
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