初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 初美は答えられずに首を振った。
「選べない?」
 初美はうつむく。
 そうすると、嫌でも指輪が目についた。仲よさげに並ぶ指輪たち。銀色のリングが多くて、ゴールドは少なかった。
 石のついたものも、ついていないものもある。二つを重ねると一つの模様になるものもある。
 なんとなく、へこみのあるデザインは嫌だな、と思った。斜めにねじれているのも嫌だ。かわいいし、以前なら平気だった。でも今は嫌だ。
 女性向けの多くにはダイヤモンドがついていた。貴斗にもらった指輪を思い出して嫌だった。
 なんでダイヤばっかり。
 初美はため息をつく。
 ダイヤモンドは最高硬度を持つ。だからこそ愛を誓うにふさわしいとされる。が、もうそのきらめきを信用することができない。
 と、男性向けのリングに変わった石がついている物を見つけた。真っ黒で、蓬星の瞳のように美しかった。タグについている名前を思わず口にした。
「ブラックダイヤモンド?」
「よかったらお出ししますよ」
 女性店員がにこやかに言う。
「いえ……」
「どれが気になったの?」
 蓬星が尋ねる。
「黒いダイヤって珍しいな、と思っただけです」
「これは価格的にも人工で着色したものだろうね」
「よくご存知ですね」
 店員はそれをケースから出して二人に差し出す。
 出された指輪を、彼ははめた。
「似合う?」
 彼はにこやかに笑い、左手を初美にかざす。
 邪気のない笑顔に、初美はなんだか申し訳なくなった。こんな彼を疑うなんて。
 対になる指輪を彼は初美にはめさせてくれた。女性用は普通の透明なダイヤモンドだった。きらきらと輝いているが、よくあるラウンドブリリアントカットだ。ただ輝くためだけにカットそれたそれは、多用されすぎてもはや平凡にすら思えた。
 よくいる平凡な自分に、指輪が重なった。
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