初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「あなたとは別れたんです」
「お前の一方的な宣言だろ。俺は返事してないからな」
詭弁(きべん)よ」
 別れを伝えたのは確かに初美だ。だが、貴斗がそう仕向けたのだ。そして、別れの言葉に対しては、余計なことを言うなよ、という口止めだけだった。
「お前は勘違いしてるんだ。あの女はお前のために呼んだんだ」
 何がどうなったら浮気が初美のためになるのか。唖然として何も言えなかった。
「新しい男は石室蓬星か?」
 初美は驚いて彼を見た。もう噂を聞いたのだろうか。
「当たりか。あんな男やめろよ。なんの面白みもないだろ」
「素敵な人です」
「体を使ったんだって?」
「誤解です」
「少しはうまくなったのか」
「失礼な!」
 言い返したときだった。
「おはようございます」
 冷たい声が届いた。
 振り返ると、蓬星が立っていた。いつものにこやかさはなく、硬い表情だった。
「そこにいらっしゃると通れないのですが」
「お前らペアリングつけてるのかよ」
 めざとく見つけた貴斗が言う。
「そうですよ」
「やっすいリングだな。こんなものしかプレゼントしてもらえないのか」
「私が買ったの」
 すぐに言い返す。自分が買って良かった、彼が侮辱されなくてすむ、と思ったら。
「女に買わせて情けねーな。昔からお前は甲斐性がないもんな!」
 貴斗はせせら笑う。
 悪口を言いたい人はなんでもどこからでも言えるのか、と唖然とした。
 と同時に、彼の言葉に引っかかった。昔からって、どういうことだろう。
「お前ら、もうやったのか? マグロとやって楽しいか?」
 貴斗の嘲笑に、初美の顔から血の気が引いた。
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