初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 守らなくては。
 蓬星はぎゅっと拳を握る。
 指輪の感触が、妙に硬く感じられた。
 
 初美はどきどきしながら入室した。
 なぜ貴斗が会いに来たのか。噂が彼の耳に届いて、だから嫌がらせに来たのだろうか。
 ふと、蓬星の言葉が蘇る。
 初美さんって呼ばれた。
 気がついて、カーっと顔が熱くなる。
 プライベートではそういう約束だった。
 職場で呼ばれるとは思わなかった。
 きっと、と初美は思う。
 彼はまた、守るためにそうしてくれたのだ。初美はもう貴斗のものじゃない。そう示すために。
 初美は左手を右手で包むようにぎゅっと握り込んだ。指輪の硬い感触が、なんだか頼もしかった。

 仕事を始めてしばらくしたときだった。
「はつ……芦屋さん、ちょっと来て」
「はい」
 蓬星に呼ばれ、初美は席を立った。
 企画室の専用の会議室に呼ばれる。
 さほど大きくない会議室だった。窓もなく、ドアを締めてしまうと密室になる。
 彼は初美が入ると鍵をかけた。
 なんで鍵を。
 初美は首をかしげた。
「ちょっとだけ、いい?」
「なんですか?」
 熱い瞳で、彼は初美を見つめる。
「あいつに宣戦布告をしたよ」
 初美は息をのんだ。
「元カレって、来島貴斗だよね」
 言われて、初美はうつむく。しばらくして、黙ってうなずいた。
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