初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「やっぱり」
 やっぱりとはどういうことだろう。思ったが、初美は聞けない。先ほど貴斗に言われたのかもしれない。
「あなたは俺のものだ」
 蓬星は初美の左手をとり、その薬指に口づける。
「俺の印をあなたにつけたい」
「印って……どういうこと?」
「こういうこと」
 彼が手を伸ばす。
 彼は初美の服に手を伸ばす。
 初美は動揺して、かえって動けなかった。
 彼は初美のブラウスのボタンを二つほどはずし、胸元に唇を落とす。
 キュッと、一瞬だけかすかな痛みが走った。
「もっと、いい?」
 よくわからなくて、初美は答えられなかった。
 それを肯定ととったのか、彼はそのまま唇を滑らす。
 何度もかすかな痛みが走った。
 キスマークをつけているのだ、と流石に理解した。
 数度を繰り返し、彼は唇を離した。そのまま、初美を抱きしめる。その力が強くて、初美は少し驚く。
「ごめん、職場でこんなこと」
「……大丈夫です」
 嫉妬してくれたのだろうか。それなら嬉しい。だけど。
 蓬星を見上げる。
 黒髪がかかる瞳は相変わらず優しい。
 こんな優しい人が、宣戦布告と言っていた。果たして大丈夫なのだろうか。彼が誰かと争うなんて、想像もできない。
「あなたは真面目で善良な人だ」
 言われて、初美は目をまばたかせた。善良なんて響きは第三者的で、自分を指して使われるなんて思いもしなかった。
「だから仁木田さんにもあの男にも振り回される。心配だ」
 なんだか情けなくなってきた。きちんと対処できてない、と言われているようで。
「彼に何かされたら……いや、彼だけじゃない、誰かに何かされたらすぐに俺に言って」
「はい」
 服を直して、初美はうなずく。
 守ろうとしてくれている。
 ただそれだけで、胸が熱くなった。
< 87 / 176 >

この作品をシェア

pagetop