初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「企画書ですか?」
 企画書を出して、と室長の佐野に言われて初美は聞き返した。
「一応、出してもらえる?」
「でも私、来たばっかりで何もわからなくて」
「だからこそいいのが出たりするんだよ。締切は一週間後ね」
「一週間ですか!?」

「君が来る前から決まってた締切だからさ。石室君から聞いてない?」
「聞いてません」
「言ってなかったっけ」
 隣の席の蓬星が驚いて言う。
「聞いてません」
「……ごめん。私が責任をとります」
 蓬星が言う。

「代理で出すってこと? だめだよ、君はもう出してるんだから」
「彼女が企画を立てられるように責任持ちます」
「ええ……」
 免除にはしてもらえないのか、と初美はがっかりした。
「先輩、企画書も作れないんですかぁ? 私はもう出しましたよぉ」
 瑚桃が口を挟んでくる。

「君はやり直して」
 速攻で佐野が言う。
「ええー?」
「中身がなさすぎるよ。気分がアゲアゲになるお風呂ってさあ」
「だって、気分アゲていきたいじゃないですかぁ」
「どうやってアゲるのか詳しく書いて出し直してね。君の素晴らしいアイディア、ほかの人に共有できないのは残念でしょう?」

「もう、仕方ないですねぇ」
 瑚桃は口を尖らせた。こうやってコントロールするのか、と初美は感心した。
「じゃ、頼んだよ」
 佐野はゆったりと自席に戻っていった。
< 90 / 176 >

この作品をシェア

pagetop