初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 企画書ってどうしたらいいんだろう。
 新しいお風呂のコンセプトを決めるらしいが、新しいお風呂とは。
 仕事しながら考えたが、まったく思いつかなかった。
 昼休憩になり、初美がっくりと肩を落とした。

「芦屋さん、お昼一緒に食べよう」
 珍しく蓬星が誘ってきた。
「私はお弁当なので」
「俺の分はないんだ?」
 いたずらっぽく彼が言う。
「た、頼まれてないですし……」
 動揺して、それだけを答える。

 蓬星はくすりと笑った。
「俺はどこかで買うよ。企画書の話もしたいから」
「はい」
 そう言われるともう断ることもできなかった。



 会社近くの公園のベンチに座り、二人はお昼を食べた。
 蓬星はコンビニ弁当だ。
「企画書なんて、難しく考えなくていいよ」
 食べながら、蓬星は言った。
「こんなお風呂があったらいいな、ってふわっとさ。書き方は過去データを見たからわかるでしょ?」
「だいたいは。ですけど……」
 そのふわっとしたものすら浮かんでこない。

「お風呂って、初美さんにとってどんなもの?」
「必須です。リラックスできるし、きれいになれる気がするし、さっぱりして気分転換できます」
「じゃあ、それができるお風呂ってどんなもの?」
「清潔なお風呂ですね。最新の設備があるとうれしいかも。泡風呂も好きだし、花びらを入れたお風呂も、打たせ湯もいいですね。壺を使った壺湯も楽しいですし、旅行に行ったら寝湯なんてのもあって楽しくて!」

 寝湯は、初めて見たときに驚いた。初美が体験した寝湯は、うっすらお湯が流れていて、寝転がっても全身がつからない。ちょっと寒いかも、と思った。ふと隣を見ると漫画雑誌を読みながら寝転がっている人がいて驚いた。
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