初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「そんな感じでいいんだよ」
 蓬星は楽しげに目を細めた。
「あとはそれを文章にまとめれば大丈夫」
「一番そこが知りたいですけど」
「どう説明したらいいのかな。とりあえず、思うように書いてみて。土台があったほうが説明しやすいから」
「わかりました」

「こんなお風呂が家にあればいいな、ってのはある?」
「最近だと、洞窟風呂が良かったです。個人宅だと無理そうですけど」
「そこで無理って決めちゃダメなんだよ。楽しそう、やってみようで上げていかないと。現実なんてあとまわしだよ」
「じゃあ、毎日お風呂が変わったら嬉しいです。今日は温泉、明日はバラ風呂、とか!」
「つまり入浴剤の出番だね」
「あれ……」

「俺達は浴槽を作るから。そのコンセプトが必要だよ」
「じゃあ円形のお風呂とか。ショートケーキみたいな三角とか、ボールみたいなのとか?」
「……斬新だな」
 蓬星は苦笑した。
 この反応、つまりは微妙ってことか。初美はがっかりした。

「そういうのが意外に良いものを生んだりするんだよ。そんな感じで進めてみて」
「じゃあ洞窟風呂もいいですよね。ご家庭で洞窟風呂……あ、VRゴーグル使うとか!」
「VRゴーグルか。いいね、ご家庭で世界のお風呂が楽しめそうだ」
「中世ヨーロッパ風とか、古代ローマ風とか、いろいろできそう。雪の露天風呂とか……」
 言って、初めて会ったときのことを思い出す。雪の露天風呂で裸を見られて、その夜に結ばれて……。思い出すだけで恥ずかしい。

「どうしたの?」
「いえ」
「何考えてたの?」
 なんでそこ追及してくるの。
「雪見風呂いいなー、って」
 ごまかすように言った。
 くすりと蓬星が笑う。
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